75歳とJKの腐女子友情譚「メタモルフォーゼの縁側」あらすじと感想【ネタバレあり】
夫を亡くして早三回忌を迎える75歳のおばあちゃん。いつぶりかに入った本屋さんで、絵のキレイさに惹かれて買った漫画は、まさかのBLコミックで―⁉ 鶴谷香央理さんが描く心温まる漫画「メタモルフォーゼの縁側」のあらすじと感想をご紹介します。
広告
あらすじ
2年前に夫に先立たれ、一人暮らしをしている75歳の女性・市野井 雪(いちのい ゆき)は、ふと訪れた書店で表紙の絵柄が気に入り、1冊の漫画を手に取る。その内容は2人の男子高校生を主人公にしたボーイズラブ(BL)作品であった。
雪はBLにハマり、これがきっかけで書店アルバイトの高校生・佐山うららと友達になり、漫画について語り合ったり同人誌即売会に出かけたり、共通の「好きなもの」を通じて交流を深めていく。余生の岐路に立つ雪、そして進路の岐路に立つうらら。年の差58歳の友情の行方はいかに―⁉
感想
BLだって乙女心をくすぐる恋愛マンガ
「おばあちゃんがボーイズラブ漫画を読むお話」と言ってもギャグではない。病院の待ち時間に週刊誌を読んだりクロスワードをするように、日常生活のひとつの楽しみとしてBLを読む。キャラクターたちを応援したくなる気持ちは、恋愛漫画を読む乙女と何ら変わりはありません。
最初は動揺していた書店員のうららも、自分が一番好きなマンガを雪も気に入ってくれたことが嬉しくなります。派手な演出はありませんが、セリフもないような何気ないワンシーンに心の変化が描かれていて情景が目に浮かびます。
好きなものは語りたくなる
私がブログを始めたきっかけも同じですが、面白いと思った漫画は人に教えたくなるし同じ作品を好きな人がいればどのシーンが好きだ、あのキャラが好き、など話したくなりますよね。そのタイトルがマニアックであればあるほど相手を見つけることが困難でその気持ちは一層強くなります。
BLという新しい世界を知った雪は誰かとこの漫画について語りたくなり、同じ作品を好きなうららをお茶に誘います。迷惑だったかな、と心配する雪ですが実はうららも同じく誰かと話したいと思っていました。彼女にはクラスで同じ趣味で語り合えるような友達はいなかったのです。
おばあちゃんと孫ほど年齢差のあるふたりですが、好きな漫画の話をする時だけは年齢なんて関係なく話ができる。とても素敵な関係ですよね。
合わせて読みたいマンガ
『ねことじいちゃん』―ねこまき(ミューズワーク)
ばあさんに先立たれたじいちゃんの猫島での暮らしが描かれたお話。なにげない一コマから日常を感じられる読んでてとても癒やされ、登場するおじいちゃんおばあちゃん、頑固な人さえもみんな可愛い作品です。あと、猫好きには絶対刺さるはず…‼
『いぶり暮らし』―大島千春
同棲カップルが燻製を楽しむお料理日常漫画。燻製の出来上がりを待つ間、まるで固定したカメラから時間の経過を覗いているかのような独特のコマ割りがとても魅力的。雪とうららのように、派手さはないですがふたりの間に流れるのどかな空気感が伝わってきます。
『この世界の片隅に』―こうの史代
戦時中の広島のお話。主人公は幾度となく苦境に立たされるもドジでお茶目で明るく振る舞います。雪の若い頃もこんな感じで、きっと周りからも愛されていたんじゃないかなぁと思いました。
まとめ
今回ご紹介したのは鶴谷香央理さんの漫画「メタモルフォーゼの縁側」でした。全5巻で、すでに完結済み。「コミックNewtype」で2017年11月〜2020年10月まで連載されていました。
受賞歴
- 「マンガ大賞2021」:8位
- 「2019年 このマンガがすごい!オンナ編」:1位
- 第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞
年齢も立場も異なるふたりが共通する好きなものを通して関係を築いていく心温まるストーリーが魅力です。「だいたい85歳くらいで死ぬとして、一年半に1冊ペースで発売される新刊を読めるのはあと6冊分くらい」と余命で計算していたりと、おばあちゃんだからこそなネタもあるのがこの作品の見どころです。実写映画化も決定しており、作品の雰囲気がどのように表現されるのか気になります。(メタモルフォーゼの縁側 | KADOKAWA)
↑ 試し読み ↑