専門医が認知のゆがみを描く漫画「ケーキの切れない非行少年たち」あらすじと感想（ネタバレ）
某県の少年院で精神医療業務を勤める医師の主人公は、問題を起こした非行少年たちにある法則があることを発見する。それは例えば「ケーキを3等分する」ことができないことで―。
不均等なケーキの絵を持つ少年が印象的な鈴木マサカズさんの漫画、「ケーキの切れない非行少年たち」をご紹介します。あらすじや感想を書くなかで、1巻のネタバレを含むことをご容赦ください。
「ケーキの切れない非行少年たち」あらすじ
某県の少年院で精神医療業務を勤める精神科医・六麦克彦（ろくむぎ かつひこ）を中心に、彼が関わった非行少年たちのエピソードが語られるオムニバスストーリー。
彼は多くの非行少年たちと出会う中で、彼らに共通する法則を発見する。それは普通の人にとっては簡単なことばかり。例えば「ケーキを等分に切る」ことすら困難なのだ。
この法則が示すのは「反省以前に、認知力の弱い子が多い」ということ。
そんな人口の十数％いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、非行や異常行動の後ろに見える問題を明らかにしていく社会派ストーリーです。
「ケーキの切れない非行少年たち」感想
「境界知的」に焦点を当てたストーリー
「境界知的」とは、軽度の知的障害を抱えているIQ70～84の子供をさす。日本人の7人に1人の割合で該当するとされる。
彼らはものごとを理解するのに時間がかかってしまい、大多数の人が当たり前だと思っていることを当たり前にできない。
非行に走る少年のなかには、自分が「境界知的」だと知らないまま育ち社会になじめず罪を犯してしまう子がいることをこの漫画で知った。彼らはとても純粋で傷つきやすく、自分を守るため暴力をふるうのかもしれない。
自分の“当たり前”を疑い、いろんな角度から物事を考えるきっかけになった。たくさんの人に認知され世の中の“当たり前”が変わり、境界知的の子たちも生きやすい社会になるといいなと思う。
読みやすいのに引っかかりのあるリアルな絵柄
重い内容だけど絵のタッチが大げさじゃないので読みやすい。
ちょっとした心の変化を目で描きわけている。たとえば移送されてきてすぐの不安な目、怒りをうまく表現できずもどかしい目、少年院での生活で思いやりを学び自信のついた目など。言葉にできないくらい些細な変化が目の表情から伝わってくる。
たんたんと描かれているようで奥行きを感じ、対象の少年が今に至るまでの過去を想像させられる。これまで難しい社会問題を描いてきた鈴木マサカズさんだからこそ描ける漫画だと思う。
特殊詐欺の受け子をやらせる手口に驚愕
作中で更生した青年が地元の先輩と再会するシーンがある。境界知的の人は騙されやすく、青年も詐欺グループの受け子に。
前の職場では人間関係がうまくいかず苦しんでいたので、お金を受け取りに行くだけで人から感謝されるなら気持ちよくなってしまうのもうなずける。
詐欺グループの描写で恐怖したのは、青年が受け取りに失敗した時のことだ。これまで優しかった先輩が青年を脅してお金を要求する恐ろしい様子が描かれている。
悪人にとって、簡単に言うことを聞いてくれる人ほど最高のカモはいない。使い物にならなくなれば責任を負わせて見捨ててしまえばいいのだから。
同郷なだけで急に頼みごとをしてくる人には気をつけようと思った。
「ケーキの切れない非行少年たち」詳細
医療少年院で6年、その後女子少年院に1年勤務していた原作者・宮口幸治さんが、自らの経験を元に執筆した「ケーキの切れない非行少年たち」のコミカライズ。
作画は鈴木マサカズさんが担当。「『子供を殺してください』という親たち」など難しいテーマのコミカライズに携わってきた作家さんです。
さいごに
鈴木マサカズさんの「ケーキの切れない非行少年たち」をご紹介しました。
少年院ってやんちゃな子たちばかりだと思ってました。しかし、あいまいな表現が理解できないだけで、ハッキリとルール化されていれば真面目に頑張れる子もたくさんいる。偏見や先入観が彼らを生き辛くさせているのかもしれないですね。
どんな些細なことも当たり前だと決めつけず、考えることが大切であると学べる作品です。原作者と同じく、この漫画がひとりでも多くの読者に届くことを願います。
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